決選投票まで2週間となった5月23日、両陣営の政策技術(専門家)チームによる討論会が、リマ市サン・ボルハ区にあるペルー国立大劇場で開催されました。

この討論会は、決選投票が決まってからは初めて、JNE(全国選挙審議会)が主催する公式のものです。(5月1日のチョタ市での候補者討論会は非公式のものでした。)


この討論会で設定されているテーマは「国家改革」「経済の回復と貧困の削減」「健康とパンデミック対策」「インフラ、及び地方開発と地方分権」「市民の安全と国内秩序」「環境保護と持続可能な開発」の6つ。

そして、両陣営から6名の政策技術チームの専門家が参加し、この6つの各テーマごとにそれぞれ1名の代表者が討論を行うという形式で開催されました。

JNE(全国選挙審議会)の公式ツイッターより引用

午後7時から3時間にわたって様々な討論が行われたのですが、ケイコ氏率いる「人民勢力党」の専門家は、具体的な政策案を主張していたのに対して、カスティーヨ氏が所属する「ペルー・リブレ党」側は具体的な政策案というよりも、ケイコ氏や父のアルベルト氏への批判が多かったという印象でした。

特に注目のテーマだった「経済の回復と貧困の削減」での一コマ


その中でもそれぞれの政策をピックアップしてまとめてみました。


1,国家改革
このテーマでは、両陣営とも副大統領候補が登場しました。

人民勢力党国と市民の距離を縮めることを目指す」、「行政の簡素化を図り、地方自治体を支援する国家が必要」とし、地方自治体や地域政府を強化するための提案を行っていました。また、「ペルー・リブレ党が主張する制憲議会による憲法改正というセロン氏の計画は、国民が期待しておらず、望んでもいない」とし、それらとは異なる政治改革を行うと主張していました。また、ペルー・リブレ党の計画は慌てて作ったもので、準備不足だとも批判してました。
そして「彼ら(ペルー・リブレ党)が国民に制憲議会を提供する一方で、ケイコの政府は健康、食料、仕事を提供する。」と締めくくりました。

ペルー・リブレ党人民勢力党(特にケイコ氏や父のアルベルト元大統領)への批判を中心に、汚職撲滅のために行動すると主張しました。また憲法については、現憲法はクーデターの産物で、ペルーに貧困、不平等、差別をもたらした元凶であると批判し、憲法制定議会のための国民投票を行うべきだと主張しました。


経済の回復と貧困の削減

ペルー・リブレ党「ぺルー人は威厳があり、何千年もの間、努力と仕事で大帝国を築いてきた。そして、それこそが我々が行おうとしていることだ。なぜなら、ペルー人は施しを待っているのではなく、仕事を求め、生産を発展させたいと思っているからだ。」と感情的に語り、「経済活動人口の70%が、生きるためだけで精一杯の生活をしており、公共政策からも排除されているという状態が30年間続いてきた」と今までの経済政策を批判しました。

そして、現状パンデミックの影響を受けて落ち込んでいる経済モデルを変えることの重要性に着目し、「下からのボトムアップ型で経済を再建しなければいけない」とし、そのために「新たな貸し付けシステム」を提案し、中小・零細企業(インフォーマルセクター)などを支援すると主張しました。


人民勢力党政権計画には「健康・食・仕事」という3つの軸があるとし、短期的に「財政・金融面での強力な推進力」、長期的には「職人、農民、漁師、労働者などの個人・中小、零細企業家への投資といった民間企業への強力な推進力」という2つの手段で経済の再活性化を促進させると主張しました。また、「税制の改正は経済の必要性に応じて行われる」として、財政状況次第では増税の可能性も示唆しました。

また、2026年までに高齢者全体をカバーする「皆年金制度」を達成する為に、年金プログラムの受給者を毎年50万人ずつ増やし、加えて受給者への支給額を倍増させる計画を推進すると訴えました。

また、中小・零細企業向けに「Volver a empezar(再始動)」という名の融資プログラムを進めることや、農産業の発展・雇用の確保につながるとして、進んでいない地方道路開発への介入、および整備計画などを発表しました。

そして、ペルー・リブレ党の政府案は「ベネズエラのプログラムをそのままコピーしたようなプランだ」と強く批判し、特にカスティーヨ氏の政権計画に「輸入制限」という文言があることから、「ペルーの養鶏で使用される飼料となるトウモロコシの75%は輸入だ。これを制限した場合、鶏肉の価格がどれほど上がるだろうか。」などと指摘し、「私たちは経済を閉じるではなく開放経済であり、それを常に支持してきた。国が必要とするものを輸入し、経済の強化にも努める。」と訴えました。


3,健康とパンデミック対策

人民勢力党「最初の100日間で、健康、診療所、PCR検査、酸素、そしてワクチンを提供する予定だ。そして11月30日までには、18歳以上のすべての人にワクチンを接種する。」とし、これまでのペルーにおけるパンデミックの管理は非効率だったとして、「非効率な管理による死亡者を増やさないために、この管理の面で改革を行う」と訴えました。

ただ、「起こったことを考えることに時間を費やすのではなく、これから何を構築していくかを考える。」とのこと。


ペルー・リブレ党まず、やるべきことは予算を見直して医療分野により大きな予算を割り当てることだとして、「このパンデミックと第3の波を食い止めるためには、まず必要な予算を定義することだ。そして、第一段階である基礎医療を強化する必要があるため、50億ソルを投入する必要がある。」とのこと。

ただ、「90年代、フジモリ主義は医療サービスや社会保障を民営化したうえ、女性は不妊手術を受けさせられたのに、反省の色はない。」と、政策案だけでなくケイコ氏の父であるアルベルト・フジモリ政権への批判に時間を費やしていました。


4,インフラ、及び地方開発と地方分権

ペルー・リブレ党これまでの公共政策はトップダウンだったとして、「それぞれの町を管理能力のある単位として認めるべきだ」とのこと。

また、様々な政府プログラムが長年にわたって実施されてきたにもかかわらず、住宅需要の23%しかカバーされてないと指摘し、市民が自らの力で住宅を建設できるように働きかける必要があると述べました。

「与えられるものではなく、彼らには自力で建設するための腕があり、国はこの条件を尊重し、彼らのニーズを強化しなければならない」と、基本的設備を備えた住宅を提供する必要性について述べました。


人民勢力党今回のパンデミックで明らかになったことは、インフラの圧倒的な不足だ。」として、インフラの整備のために「世界で最良の方法を探すことが我々にとって必要だ。今日、世界で最も効果的なのは、政府間の契約であり、中央幹線道路の契約のように、プロジェクトマネージャーがペルーに来て、効率的に、透明性を持って、汚職のない状態でプロジェクトを実施することができる。」と、最良の技術を世界レベルで探し、未舗装道路、灌漑用水路といった国内のインフラ・プロジェクトを実施していくことを主張しました。


5,市民の安全と国内秩序

人民勢力党ペルーでは日常的に発生している街頭犯罪の防止と制裁に力を入れる」として、携帯電話の窃盗やひったくりなどの街頭犯罪を「問題解決」プログラムで取り締まると述べました。

そして、街頭犯罪と戦うためには、「警察署を強化することが最も重要であり、警察署の中でも、まず、刑事と犯罪捜査を強化することが重要だ。」とのこと。

国内に刑務所を増やすことの重要性を強調し、最終的にリマに5つの刑務所を新設することを発表しました。

また、ペルー・リブレ党の5人の議員が 「テロとのつながりがある」という疑惑があることに言及して、「ギジェルモ・ベルメホ氏(極左テログループとのつながりから、現在起訴されているペルー・リブレ党の議員)は、麻薬取引にも関係しています。それが本当の犯罪組織なのです。」と批判していました。


ペルー・リブレ党犯罪防止のための対策を推進し、組織犯罪に対処するための国家警察の役割を再構築・強化すると主張し、「組織犯罪を撲滅できれば、すべての犯罪を撲滅することができる。警察と、地区自警団、ロンダス・カンペシーナス(農民自警団)とで、我々は戦いに勝つことができる。」と述べました。

また、「今日の大きな脅威は、犯罪組織の人物が選挙プロセスに介入することです。」と、ケイコ氏がマネーロンダリングの容疑で起訴されている点について言及し、人民勢力党の選挙への参加そのものを批判していました。

また、犯罪に対抗するためには「防犯が重要である」として、警察組織と情報戦略の強化を約束し、人民勢力党の提案はすでに起きた犯罪への対応であると批判しました。


6,環境保護と持続可能な開発

ペルー・リブレ党提案はバランスの尊重」と、「科学技術省の設立」に基づくものだとして、「私たちはバランスを尊重しなければならない。私たちが必要としているバランスやマネジメントは、紙に書かれた単なる取り決めではありません。実施するためには、注目し支える全ての人の参加、そして何よりも、この国で私たちが持っている知識の全てが必要だ。だからこそ、我々は科学技術省を提案しているのです。」とのこと。

そして、現在の経済モデルは「環境や先住民の保護を放棄することを許している」と批判し、「私たちは、投資を促進し、今後も促進していきます。ただ、環境を尊重し、何よりも生命を尊重するような、あらゆる種類の投資を歓迎します。それが私たちが必要としているものであり、求めているものなのです。」と述べました。

そして、環境を保護する技術を普及させる必要性にも言及していました。

人民勢力党天然資源の開発が重要で、さらに進めていく一方、汚染や生態系に影響を与える活動に対する対策に注意を払うとのこと。

「鉱業は必要だ。ただ、それには田舎を助けることも重要だ。[中略]リチウムといった資源には未来があるが、政府はもっと機敏に動かなければならない。鉱物やレアアースの開発は各地で進んでおり、それに取り組まないと国際競争力を失ってしまう」と訴えました。

エネルギー分野については、化石燃料の使用をやめるために、風力、太陽光といった再生可能エネルギーへ転換していく必要があるとのこと。

また、「環境にやさしく、持続可能なビジネスには特典や税制面での支援を行う」としています。



以上政策技術(専門家)チーム討論会のまとめでした!


ちなみに次の日曜日の5月30日には、両候補者の討論会がペルー南部アレキパ州の国立サン・アグスティン大学のシモン・ボリバル講堂にて開催されます。依然リードのカスティーヨ氏にケイコ氏は追いつくことができるのでしょうか…。


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6 件のコメント:

  1. 両陣営の公約の概略をアップしていただき有難うございます。唯一無二の物凄く貴重な情報です。ケイコ氏チームの政策は現実的で具体性に富んだものが多いと感じます。一方カスティーヨ氏側のは貧困層に夢を与える事によって単に集票効果を高める為のものでしょう。いわゆる実現性の乏しい絵に描いた餅です。30日にアレキパで行われる大統領候補討論会でケイコ氏が圧倒しない限り逆転は難しいと言われていますがどうなるのでしょうか。ケイコ氏は勝敗によって大統領になるか収監されて政治生命を失うかのどちらかなので必死でしょう。カスティーヨ氏が勝てば欧米との関係が薄くなり逆に中国・ロシアとの関係が濃密になるでしょうね。即、中国から大量のコロナ・ワクチンが入ってくるかも。ペルーがキューバ・ベネズエラ・ボリビア・ニカラグアの様な国になるのは勘弁してほしいです。

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    1. rokkoimport様、嬉しいお言葉ありがとうございます!励みになります!

      実現性の乏しい絵に描いた餅というのは仰る通りだと思います。政策だけで言うならケイコ氏が圧勝でしょうね。
      そもそもカスティーヨ氏は、セロン氏が発表したペルー・リブレ党の政権計画の策定に関与していませんし、彼自身よく中身を分かってなかったのだろうと思います。笑
      決選投票が決まってからも、ペルー・リブレ党の急進的すぎる政策から少し変化する動きは見せていたものの、完全に党やセロン氏を無視することはできていなんでしょう。
      カスティーヨ氏はセロン氏やペルー・リブレ党と距離を置き、ウマラ氏のように穏健で現実的な政策案へと転換すると誰もが安心なのですが、そもそもカスティーヨ氏個人にそこまでできる政治的な力は無いと思います。
      討論会から逃げていたのも、どういう方向性で行くか定まっていなかったため、時間を稼ぎたかったのだろうと思います。当初の選挙キャンペーンでは、発言が批判される度に二転三転していたので、このままではまずいと思ったのでしょうね。

      ケイコ氏は3度目の決選投票ですからねー…。3月に起訴されたということもあり、もう後が無いと思っているかもしれませんね。
      23日の討論会はケイコ氏に有利に働いたと思いますが、世論がどのように動いたのか気になるところです。

      議会が機能する限りは、ベネズエラやキューバのような国にはならないとは思っていますが、憲法改正(新憲法制定)がやはり懸念材料ですね。
      議会がある限りはブレーキが利くはずですが…。

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  2. 心配なのは仮にカスティーヨ氏が政権を取った場合、制憲議会選挙を強行して反対派国民を選挙ボイコット(棄権)させて自らの息がかかった人間だけで制憲議会を独占する事です。カスティーヨ氏最高裁と制憲議会の両方を手中に収めて現議会の無効化を図る作戦を立てているのでしょう。これは正にベネズエラの現マドゥロ政権のやり方です。ペルーがこうならない事を心から願っています。

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    1. 仰る通りです。そして、セロン氏やペルー・リブレ党の幹部は明らかにそうした方法を模索していように感じます。カスティーヨ氏はさすがにそこまでのことを自分の責任でやりたくはないんでしょうけども。

      ただ、まぁ議会がそれを許さないでしょうし、当時のチャベス政権のように、カスティーヨ氏やペルー・リブレ党がペルー国民から圧倒的な支持を得ている状態ではないので、さすがに大丈夫だとは思うんですけどね…。

      私も大好きなペルーが「ろくでなし国家」の仲間入りをすることだけにはならないように心から願っています。

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  3. 両者の支持率の差が縮まって来た様ですね。5月30日(日本でのペルーRPPの記事掲載日)の報道によりますとDATUMによる世論調査の結果、最新支持率は(カスティーヨ氏)42.6%、(ケイコ氏)41.7%、(差)0.9%との事。誤差の範囲内と指摘されています。討論会の度に差が縮まっているそうです。いよいよどちらが勝つのか判らなくなって来ましたね。30日にアレキパで予定される両候補者の直接対決の討論会の結果どうなるのでしょうか。最新支持率の報道ですがイプソスヤCPIなど他の調査機関はまだ発表していないのでしょうか。

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    1. はい。かなり縮まっていますね!DATUM社の模擬投票方式だと0.9%差、質問形式の世論調査だと0.1%まで縮まっています。
      ペルーでは世論調査は投票日の1週間前までしか公表してはいけないという法律があるため、30日に各社最後の世論調査を発表しました。
      見てみると、IEP社では2%差、IPSOS社では2.2%差となっていますね。いずれも誤差の範囲内に収まっているので統計的には両者並んでいると言えるでしょう。

      討論会のたびにケイコ氏の支持が伸び、カスティーヨ氏は下がっていることから、本日の討論会でケイコ氏の逆転の可能性が見えてきましたね!

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