JNE(全国選挙審議会)が主催する、制作技術チーム(5月23日)と大統領候補者(5月30日)の2つの討論会開催が決定して以降、予定していた選挙キャンペーンを中断し、リマに滞在し続けていたカスティーヨ氏ですが、16日(日)に「汚職無きペルー200周年へ」という新たな政権計画を自身のツイッターで発表しました。

元々、ペルー・リブレ党には党代表のウラジミール・セロン氏が発表しているペルー・リブレ党政権計画というものがありますが、あまりに急進的で突っ込みどころ満載なためか、カスティーヨ氏陣営は新たな政権計画を発表したようです。

討論会ではあくまで、この政権計画をもとに議論したいということでしょうかね?笑


さて、この新たな政権計画は、「パンデミックとの闘い」、「雇用と人民経済の再開」、「第2次農業改革プロセスの開始」、「過剰な利益のある企業からの公正な貢献」、「すべての人にガスを」、「安全で適切な対面式教育への復帰」、「新憲法制定のための国民投票を実施」の7つの項目でまとめられています。

ただ、この政権計画はあくまで政権発足から100日間の政権目標を定めたもので、5年間の任期全体の計画ではない、ということは注意すべき点です。


それでは、カスティーヨ氏の政権計画「汚職無きペルー200周年へ」を各項目ごとにご紹介します!


 1.パンデミックとの闘い

感染状況のモニタリングと、科学技術研究省の設立のために、公衆衛生分野の科学者や技術者、研究者からなる専門家委員会を招集するとのこと。

また、医療用酸素ボンベの無料配布、ICUの増床、全員への無料ワクチン接種などといった政策に加えて、市民とロンダス・カンペシーナス(農民自警団)が参加する保険地域協議会なるものを創設し、保健当局と連携させるという、いかにも「カスティーヨ氏らしい」計画もされています。

こうした組織の協力によって、各地区・各集落の患者が自宅で治療を受けることができる計画を推進するとのこと。


2. 雇用と人民経済の再開
政府は混合経済のアプローチの中で、規制の役割を強化する。」とはっきり規制の強化が明記されています。また独占や寡占には、より積極的に規制するとのこと。
そして「経済活動を正常化させるには、国が重要な支援を行うことが必要である」として、あくまで政府が様々な形で市場に介入し、経済の活性化を図るようです。

国営企業が市場に参入して政府が市場経済に直接多くの関与をする混合経済制へのアプローチというところに、左派政党らしさを感じますねー。


あとは、ペルーに投資し、税金を納め、労働者の権利や環境を尊重する国内外の起業家を認め、民間企業を振興させるとし、他にも
零細・小企業への公共購入の促進
水道、電気、インターネットサービスへの一時的な補助金
特定の産業に影響を与える輸入品による不当な競争の停止
学校修繕・農村の道路の修繕などへの即時雇用
農業と中小企業を促進するためアクセスしやすい融資を促進
などを行うとしています。


3. 第2次農地改革プロセスの開始
これまでの農業政策は地域生産者の主導ではなく、トップダウンで縦割りに行われてきた。」として、生産地域や地方組織が重要な農業政策へ参加する、「下からの」参加型の農業開発を目指すとのこと。

具体的には、
食料品の輸入を減らして国内農産業を保護
農業生産物の多様化を促進
国内外の市場に向けた農産物の供給を計画
家族や共同体単位の農業における土地と水の管理への優遇措置
地域の実情に即した戦略的計画と農地情報のシステムの強化
農地保険の範囲と精度の整理
土地の買占めや独占を見直し、中小農業用の土地の確保を促進し、うち一定の割合をパン生産へ割り当て
農業および農村の改良活動の回復と分権化
などを主張しています。


かつて、ペルーにおいてベラスコ左派軍事政権(1968~75)が行った農地改革では、地主寡頭支配制を打倒し、農民の生活水準向上国の工業化のための資本を創出することを主な目的に、大地主から土地を接収し、主に協同組合などへの再編を進めました。この農地改革は「あまりにも歪な寡頭制の解体が進んだ」という部分はあるものの、農地所有形態の構造転換も結局は上手く進まず、農業生産性が低下したという事実から、明らかに失敗でした。

農業の保護という目的は分かるのですが、こうした国家が管理する形の改革という方法は、結局ベラスコ政権のように貧困を増加させる懸念がありますね…。
また輸入の規制に関しては、物価の上昇を招き、ペルーの輸出にも影響を与える可能性があります。食料品やガソリンなどの価格上昇に伴って物価が上昇した場合、収入の少ない層ほど大きな影響を受けてしまいます。


4. 過剰な利益のある企業からの公正な貢献
教育や健康への投資を大幅に増やすために、富を国有化し、ペルー人のために役立てなければならない。」と国有化という文言がしっかり明記されています。

また、適切な税金やロイヤリティに関する新しいルールが必要とも明記されています。

全国的に国民による対話の上で、利益超過に対する新税を創設
販売促進期間として与えられた、企業にとって不要となった免税措置の廃止
タックスヘイブンを利用して税金を逃れている企業に対する免税措置の撤廃
脱税やマネーロンダリングに対する積極的な政策の展開
チリやコロンビアなどの近隣諸国のように、売上に応じたロイヤリティ制度創設
大企業との税金安定化契約の再交渉
といったことを主張しています。

つまり、大企業(特に資源関連)との契約再交渉、免税措置の撤廃、新税創設を目指す一方、脱税や租税回避をなくすことで税制の健全化を図り、教育や健康への投資や公共事業を増やしていく、ということのようです。


他国並みの妥当な範囲でのロイヤリティであれば、企業としても交渉の余地があるでしょうが、企業にとってあまりにも不利な新税の創設や、ロイヤリティの設定によって、生産性低下や、場合によっては企業の撤退の可能性もあり、この提案は経済的に大きな打撃となる可能性があります。

あと、企業との交渉が上手くいかなかった場合はどうするのでしょうかね?
ペルー・リブレ党の計画では条件を受け入れない企業の国有化という過激な主張をしているという事からも、この点が大いに懸念される部分です。

5. すべての人にガスを
2005年以降の政権は、ガスを沿岸部の都市(主にリマ)や海外に運んでいるだけで、何百万人もの中部・南部高地の村々の家庭にガスを届けることができていない。」として、家庭に安価なエネルギーを提供するために、まずはペルー南部への液化天然ガスのパイプラインを建設を目指すとのこと。

また、ガスの普及のためにガス・パイプラインの全国ネットワークを構築し、公営企業の管理を強化し、国内、工業用、その他の用途別に補助金を定め、資源の社会的収益性を高めるべきであるとしています。


6. 安全で適切な対面式教育への復帰
教育における直接的で物理的な関係はかけがえのないものなので、学生が安全かつ適切に教室に戻れるよう、緊急の対策を提案することが不可欠である。」として感染対策をとりながらの対面式授業の早期再開の重要性を訴えています。

またそのために、
教育関係者へのワクチン接種
すべての学生と教育スタッフにマスク、アルコールジェル、石鹸を提供
給排水、教室の換気改善や、必要に応じてプレハブの仮設教室といったインフラ改修
午前と午後のシフト制にしたり、出席日とオンライン授業の日を交互に行うといった様々な対策を講じる
などと提案しています。

加えて、これらの対策は「教師や教育関係者の膨大な努力を意味している」とし、教育関係者に十分な報酬や補償、サポートを行うとしています。

現在、ペルーはオンライン授業が行われていますが、インターネット環境が整っていない子供達にとっては重要な政策でしょうね。これも教師であるカスティーヨ氏らしい計画ですね。


7. 国民投票の呼びかけ
現行憲法は、クーデターの産物であり、社会運動や労働組合運動に対する迫害の中で承認されたものであり、【中略】公共の利益よりも私利私欲を優先し、生命や尊厳よりも利益を優先している。」や、「植民地主義の原型があり、先住民や農民コミュニティの政治的および文化的制度を無視している。」として現行憲法を酷評し、「独裁者の憲法は、すべての声とすべての血によって作成された民主主義の憲法に道を譲らなければならない。」と訴えています。
そのため、ペルー国民が新しい憲法を望むか否かを民主的に決定できるよう、国民投票の呼びかけを推進することのこと。


そして、新憲法は社会運動、職業団体、企業家、労働組合、市民社会、学生代表、地域組織、先住民といった、全ての民意によって練られ、民衆の色を持つものになるだろうとして、

特に以下の項目を挙げています。

健康と教育、食料、住宅、インターネットへのアクセスといった権利を認め、保証する
先住民とその文化的多様性を認める
自然権とより良く生きる権利を認める
積極的な市民参加による意思決定の透明性を保証する国家の再設計
国家は戦略的計画、規制、投資を実践し、公共の利益が私利私欲よりも優先される

また、憲法改正のプロセスに関してはあくまで、「現行の憲法と法律の枠組みの中で、新憲法を制定するための制憲議会の召集を承認するか否かを、国民が判断できるようにするための国民投票に向けたプロセスを開始する」とのこと。

※現憲法では制憲議会による憲法改正は規定されていません。

そして最後に「ペルーの人々への呼びかけ」と題して、全ての人に汚職との闘いに参加し、フジモリ独裁政権の復活を防ぐよう、協力を呼び掛けています。
また、選挙戦では「人種主義的、差別的、排除的な攻撃を目の当たりにしている」とし、カスティーヨ氏が「希望のメッセージ、祖国を回復してすべてのペルー人のために主権を握るというメッセージを伝えただけで、激しい攻撃の対象になっている」と訴えています。

そして就任が予定されている7月28日には、「法的安全性を備えた主権国家である祖国に礎石を置き、そこではすべての人が自由と社会的正義をもって平和に暮らすことができるだろう。このようにして初めて、私たちは恥じることなく子孫の顔を見ることができ、清潔で安全な、汚職のない祖国の基礎を残したという誇りを持つことができるのだ。
と締めくくっています。


感想

経済的には、政府による市場への積極的な介入規制の強化富の国有化、農地改革、利益超過に対する新税、といった部分が心配ですね。
大企業への課税強化や富の国有化といった部分は、コロナ前まで比較的好調だったペルー経済に大きな打撃を与える可能性があります。また、規制の強化や政府の市場介入は官僚主義に陥る危険性がある上、「汚職の増加」に繋がりかねません。
また農地改革は、過去に行われた農地改革同様、現在貧困に苦しんでいる層を一層貧困に陥らせる危険性がありますね。


特に、富の国有化という部分が一番懸念される点です。
大企業との交渉が進まなければどうなるのか、また新税やロイヤリティの設定は現実的なものになるのかどうか、という懸念は早めに解消してもらいたいものです。そんな懸念のある国に誰が投資してくれるのか…。
また、外資の引き上げという事態も絶対に防がなければいけません。

もちろん、資源関連企業の採掘に伴う環境問題や公害といった地域住民の生活や人権にかかわる部分に問題が無いようにするといった規制は重要ですね。
また、ペルーにとってあまりに不利な契約があれば(あるのか?)、その部分の交渉はむしろ好ましいでしょう。
理想」の実現のためにどこまで「現実」を見ることができるのか。今後予定されている討論会で技術チームやカスティーヨ氏の認識をしっかり確かめる必要がありますね。


また、政治的には「新憲法制定のための国民投票を実施」の部分は大きな懸念材料ですね。
次期共和国議会では、「ペルー・リブレ党」の議席は28%(37議席)しか無く、現在協定を結んでいる「ペルーの為に共に党」を合わせても31%(41議席)となっているため、あまりにも急進的な政策を実現させることが難しいのは間違いありません。


しかし、憲法を改正する過程で議会を解散させることができれば話は別です。



上記の[7. 国民投票の呼びかけ]でも書いたのですが、新たな政権計画ではあくまで「現行の憲法と法律の枠組みの中で」憲法改正のプロセスを実施すると書いているのですが、カスティーヨ氏は現行憲法では規定されていない「制憲議会」での憲法改正を目指すとしています。

現行憲法では「議会が絶対多数で承認し、国民投票で批准する方法」と、「通常議会で2度承認する方法」の2つの方法で憲法改正のプロセスは規定が規定されています。
しかしカスティーヨ氏陣営は、現憲法のプロセスを目指さず、あくまで「制憲議会」による憲法改正にこだわっているんです。というのも、ペルー・リブレ党創設者で代表のウラジミール・セロン氏が憲法改正の3つ目の道として、「もし選挙に勝てば、国民投票で憲法の改正を目指すか、もし議会が反対するならば議会を解散するための信任投票を行う」と議会の解散を明言していたんです。
こうした現憲法の規定に反した方法での憲法改正プロセスは、憲法の問題だけでなく、ベネズエラのチャベス政権が行ったように、「制憲議会を権力支配確立の道具」としてしまう危険性を孕んでいます。
まぁさすがに、ここまでするのも難しいとは思いますが…。


もちろん、ペルー国民の大多数が必要と考える憲法の改正は全く問題ありません。ただ、「制憲議会によって新たな憲法の制定」という方法は、現憲法には規定されていない、ということに注意しなければいけませんね。

怖いのが、政府が積極的に市場経済に介入→非効率なため市場の生産性が落ちる→政権への求心力が低下→議会解散といった手法で政治的な支配を強める
という急進的独裁政権あるある(例:ベネズエラ)になりそうなのが怖いんですよね…。笑


ちなみにケイコ氏は、カスティーヨ氏のような新たな政権計画は現状ありません。ケイコ氏の政権計画はこちらの記事で簡単にご紹介しています。
ケイコ氏の政権計画は、内容の是非はともかくカスティーヨ氏の計画より広範囲かつ、より詳細なもので、様々な公式情報を多数引用して分析されています。

政権計画の質だけで言えば、圧倒的にケイコ氏に軍配が上がりますね。

それでも苦戦するケイコ氏。笑
どんだけ嫌われてんねん!笑

以上、カスティーヨ氏の新政権計画「汚職無きペルー200周年へ」のご紹介でした。

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2 件のコメント:

  1. カスティーヨ氏の公約は表向き貧困層、労働者・農業層に好まれる内容ですが所詮は絵に描いた餅でしょう。確かに社会主義政権になればガスを含め地方のインフラ整備は進むでしょうしコロナワクチンは大量に中国・ロシアから入手できてペルー国民にとってメリットもあるでしょう。しかし外交面で欧米との関係が悪化してペルー経済が衰退するリスクがあります。さらに国民がお互いを監視し合う不自由な社会になるかも。当局に違反者を通報すれば報奨金がもらえるので皆が楽しんで小遣い稼ぎに励むでしょう。私はペルー・ボリビアの会社と長年に亘って取引をしていますがペルーの隣国ボリビアが2006年に極端な反米社会主義のモラレス政権になって以降ひどい目に会い続けています。ほとんどトラウマ状態です。今後ペルーがボリビアと同じようにならない事を切に願っています。

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    1. rokkoimport様 コメントありがとうございます!
      仰る通り、カスティーヨ氏の計画は絵に描いた餅になる可能性が高いと思います。
      そして貧困層、労働者・農業者層をより苦しめる結果になりそうで心配です。そして政治的な混乱も…。

      長年ペルー・ボリビアの会社と取引されているんですか!どおりでペルーの政治にお詳しいんですね。そして、モラレス政権のせいでご苦労多かったことでしょうね。お察しします。

      ペルー国民も、ボリビアやベネズエラのような近隣諸国で何が起こったのかよく知っていると思うんですけどねー。しかもペルー国民の多くが左派政党を支持しているという訳ではないのに…。
      それでもカスティーヨ氏がここまで優位というのは、対立候補がケイコ氏という点が一番大きな要因でしょうね。
      政策云々というよりカスティーヨ氏や左派の拒否感よりもケイコ氏への拒否感が上回っているんでしょう。

      22日のアンチ・ケイコ氏のデモ、私達が住んでいるトルヒーヨでも行われていました。また、一部世論調査でもケイコ氏とカスティーヨ氏の差が開いているという結果も報道されています。ますますケイコ氏が苦しい状況になっているようです。
      今後討論会も予定されているので、まだまだどう転がるか分かりませんが…。

      私も同じく、ペルーがボリビアと同じようにならない事を心から願っています。

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