6月6日に行われる2021年ペルー大統領選の決選投票。
※前回調査は4月17~21日、今回は5月3~6日に実施。
※前回調査は4月27~29日、今回は5月5日~6日に実施。
討論会直後の調査という事もあって、CPI社での調査では「チョタ市での討論会を見て意見を変えましたか?」という質問がありましたが、「はい」と答えたのは5.1%のみでした。
ペルー独立200周年という記念すべき日に「急進左派」or「フジモリ」のどちらをペルー共和国大統領に就任させるのか、ペルー国民にとっては非常に悩ましい投票日まで残り1か月を切っています。
さて今回は、最新の世論調査結果と幻のサンタ・モニカという今週あった2つのニュースをご紹介します。
追い上げるケイコ氏
前回の記事で、IPSOS社の世論調査をお伝えしましたが、その後チョタ市での討論会(5月1日)後に実施された3つの世論調査(CPI社、IEP社、DATUM社)の結果がそれぞれ発表されました。
まず、3社の結果をまとめますと
各社世論調査 |
カスティーヨ氏支持 |
ケイコ氏支持 |
CPI社 |
34.2% |
32% |
IEP社 |
36.2% |
30% |
DATUM社 |
41% |
36% |
両候補者の差 |
前回(4月下旬)調査 |
今回(5月上旬)調査 |
CPI社 |
12.4% |
2.2% |
IEP社 |
20% |
6.2% |
DATUM社 |
10% |
5% |
となっています。いずれもカスティーヨ氏の優位は変わっていませんが、その差がいずれも前回の調査と比べて大幅に狭まっています。
各社、前回と今回の調査を比較してみますと…
CPI社 |
前回 |
今回 |
前回との差異 |
カスティーヨ氏支持 |
35.5% |
34.2% |
-1.3% |
ケイコ氏支持 |
23.1% |
32% |
+8.9% |
白票・無効票 |
20.3% |
18.5% |
-1.8% |
決めていない |
17.7% |
15.3% |
-2.4% |
投票しない・行かない |
3.4% |
― |
-3.4% |
※前回調査は4月18~21日、今回は5月6~7日に実施。
「投票しない・行かない」の項目は今回の調査では無くなっていました。
IEP社 |
前回 |
今回 |
前回との差 |
カスティーヨ氏支持 |
41.5% |
36.2% |
-5.3% |
ケイコ氏支持 |
21.5% |
30% |
+8.5% |
白票・無効 |
21.2% |
21.3% |
+0.1% |
まだ決めていない |
13.5% |
8.6% |
-4.9% |
投票しない・行かない |
2.2% |
3.8% |
+1.6% |
DATUM社 |
前回 |
今回 |
前回との差 |
カスティーヨ氏支持 |
44% |
41% |
-3% |
ケイコ氏支持 |
34% |
36% |
+2% |
白票・無効 |
11% |
11% |
0 |
まだ決めていない |
11% |
12% |
+1% |
誤差(±2.5~2.8%程度)を考慮しても、カスティーヨ氏が依然優位であるものの、ケイコ氏が猛追し、両者の差が狭まっているのは間違いないということなのでしょう。
討論会直後の調査という事もあって、CPI社での調査では「チョタ市での討論会を見て意見を変えましたか?」という質問がありましたが、「はい」と答えたのは5.1%のみでした。
ただ、「はい」と答えた人のうち、63%がケイコ氏に投票すると答えたことから、討論会を見て投票先を決めた・変えた一部の人の多くがケイコ氏支持に回ったということが大きいのでしょうか。
討論会での両者の提案が影響したのか、討論会までのやり取りが影響したのか…。笑
討論会から逃げ続けるカスティーヨ氏
全国選挙審議会(JNE)が求めている4回の討論会(大統領候補者2回、副大統領候補者1回、制作技術チーム1回)の開催をケイコ氏陣営は受け入れているのですが、カスティーヨ氏陣営は回数が多いなどと討論会開催に難色を示しています。
しかし今週、新たな討論会開催か?と思わせる出来事がありました。
きっかけは5月7日、ペルー東部アマゾン地帯のウカヤリ州で選挙キャンペーンを行っていたカスティーヨ氏が、多くの聴衆の前で
「次の討論会は、サンタ・モニカ刑務所で行いたいと思います!!」と発言したからです。
サンタ・モニカ刑務所とは、ケイコ氏が資金洗浄の容疑で2度にわたり身柄を拘束(逃亡を防ぐための予防拘束)されていたリマ市内にある刑務所です。ケイコ氏は、直近だと2020年1月から5月の間拘束されていて、現在は制限付きで釈放されているという状況。この刑務所はケイコ氏にとって自身の汚職疑惑の象徴とも言える場所でしょう。
色々と理由を付けて討論会を避けているカスティーヨ氏。しかし、最近の世論調査でリードが狭まっていることを受けて、ケイコ氏にとってあまりにも受け入れ難い&現実的に無理な場所での討論会の挑戦を明言しました。
討論会をせずに自身が討論会から逃げている印象を打ち消すのと、ケイコ氏=汚職というアピールをしたいという思惑があったのでしょう。
しかし、ケイコ氏の方が一枚上手でした。
ペルー北部のピウラ州での選挙キャンペーンを行っていたケイコ氏は、カスティーヨ氏の発言に対して報道陣に
「刑務所の中はさすがに無理だけど、刑務所の前で討論会をするんだったらいいよ!行くから日時決めて!」
と、刑務所前での討論会開催を受け入れちゃいました。笑
また「カスティーヨ氏は、JNEが提案した討論会を受け入れない言い訳をし続け、逃げている」とも付け加えました。
その後カスティーヨ氏は、La Republica紙のインタビューで
「俺たちは何も問題ない!もしケイコ氏が討論したいのなら、時間と日時を決めて!」と述べました。
これに対してケイコ氏は、
「いいでしょう。じゃあ土曜日の午後3時、サンタ・モニカ刑務所の前でね。怖じ気づかないでね、ペドロ。」
と、前回同様プロレスさながらのやり取りで討論会の日時が決まりました。笑
こうして前回のチョタ市での討論会が開催された時と同じような急展開となったのですが、今回は様子が違いました。
このまま前回と同じように討論会の開催が決まりそうな雰囲気の中、ペルー東北部ロレト州に滞在していたカスティーヨ氏は報道陣に対して
「私たちが『藁のしっぽ(Rabo de paja)』を持っていないことを示すために、ケイコ氏にはお互いの両親と共に議論の場に座ることを求めます。ペルーには信頼の空間が必要です。」
と、また新たな条件をつけました。
「藁のしっぽを持つ」というのは「やましいところがある 」というような意味で、カスティーヨ氏は、何故か討論会に各候補者の両親を同席させることをケイコ氏に依頼しました。
カスティーヨ氏の両親もびっくりなこの提案は、急遽新たな討論会の開催が決まってしまいそうな雰囲気に慌てたカスティーヨ氏が、討論会の開催をさせないようにするためのものだったのでしょうか…。
両親の同席って言っても、父親である元大統領のアルベルト・フジモリ氏が刑務所にいるケイコ氏には不可能な要求ですもんね。笑 しかも両親離婚してるし。笑
その後、ロレト州から空路でリマに戻ったカスティーヨ氏は報道陣に
「JNEとの間で調整された討論会を受け入れるつもりです。
土曜の討論会?行きませんよ、単純なことです。それ(JNEの討論会)が私たちが引き受けなければいけないものです、何も問題ありません。」
とコメントし、JNEの討論会には行くけど、土曜の討論会には参加しないと明言しました。
刑務所での討論会は彼が言い出しっぺなんですけどね…笑
一方のケイコ氏は、カスティーヨ氏の発言を受けてツイッターに
「土曜日の午後3時に彼を待ちます。彼が現れるかどうか見てみましょう。」
というコメント共に、以下の画像を投稿していました。
「ペドロ・カスティーヨ、その男尊女卑な態度をやめて、もう少し女性に敬意を払ってくれ。私をあなたの思い通りにさせようとすることは出来ない。土曜日の午後3時に、新しい討論会でお待ちしています。」と書いてあります。笑 |
ややこしいので、ここまでの経緯をまとめると
カスティーヨ氏、ケイコ氏が捕まっていたサンタ・モニカ刑務所での討論会呼びかけ
↓
ケイコ氏、「刑務所の前ならOK!」と受け入れ
↓
カスティーヨ氏、「討論したいなら、時間と日時を決めて」と発言
↓
ケイコ氏「じゃあ今週土曜の午後3時で」と指定
↓
カスティーヨ氏「両親も一緒に(?)」と要求。その後、土曜は行かないと発言
↓
ケイコ氏「ええ加減にせえや!女やからってなんでも言う事聞くと思ったら大間違いやぞ!
土曜に刑務所前で待ってるからな。」←NEW
カスティーヨ氏にとっては、汚職の容疑者であるケイコ氏をからかうための「意地悪な発言」のつもりだったのでしょうが、その発言がケイコ氏に利用されてしまい、「カスティーヨ氏が逃げた討論会」という名の政治集会を開かれる結果となってしまいました。笑
まぁ討論会やるぞって言っちゃった以上は両親同席とか頓珍漢なこと言わずに討論会すればよかったんですけどね。笑
作・モニカ画伯(笑) |
そういえばカスティーヨ氏は以前、全国選挙審査委員会(JNE)が提案した4つの討論会について言及し、「マフィアや汚職にまみれているのに討論しようとする」人たちの口を「国民が塞がなければいけない」と発言したことがありましたっけ…。
ほんまに討論会嫌なんやろなー笑
ただ、そんなカスティーヨ氏もさすがにJNEの討論会には行くと言っていることから、今週JNE側と両陣営が5月下旬に討論会を開催することで合意に至りました。
5月23日(日)…両候補者の政策技術チーム
5月30日(日)…カスティーヨ氏とケイコ氏
以上の2つの討論会の開催が決定しました。
23日の政策技術チームによる討論会は首都リマで開催されることが決まっているそうで、「国家改革」「経済回復と貧困削減」「健康とパンデミック対策」「インフラ・地域開発・地方分権」「治安と国内秩序」の5つの議題で行われることも合意されました。
そしてJNEによると、この討論会に副大統領候補者を出席させるかどうかは各陣営の判断に任せるとのこと。
そして30日の大統領候補者による討論会は、リマ以外の地方で開催されることが決まったそうです。ただ、どこで開催するか・どのような議題にするかは14日(金)に予定されているJNEと両陣営による会議で決定されるとのこと。
とりあえず開催が決まって良かったですね!
ただ、もう時間もあまりないことから結局この2回の討論会だけになりそうです。
さてさて
今週の土曜、サンタ・モニカ刑務所の前でケイコ氏は何を話すのか。
そして、カスティーヨ氏はその時いったいどこにいるのか。笑
ペルーの大統領選挙って本当に面白いですね。
5月14日追記:DATUM社が12~13日にかけて実際のものと同様の投票用紙を使った模擬投票形式の世論調査を行い、カスティーヨ氏44%、ケイコ氏41%とその差は3%となっています。また、電話での投票意向調査ではカスティーヨ氏42%、ケイコ氏40%とその差は2%となっており、両者の差がさらに縮まっているようです。
ペルーの検察・司法って反フジモリ勢力が牛耳っているのでしょうか。ケイコ氏は汚職疑惑で禁固30年以上が求刑されていると聞きましたが刑が重過ぎませんか?また最近の話ではケイコ氏はエクアドルのキトで近々開催されるバルガス・リョサ氏主催の民主主義のフォーラムに参加したいのに検察・司法が国外訪問は認めないとの判断をしているとの報道を目にしました。強大な反フジモリ勢力が司法や軍を抑えているんでしょうか。
返信削除これは難しいですねぇ。確かに30年という求刑は重すぎる気がしますし、検察は4月の選挙直前(3月)に急に捜査を終結させて起訴に踏み切り、ケイコ氏だけじゃなくてFPの解散まで求めているという点からも政治的な態度をとっている、とも言えなくもないですもんね。
削除エクアドルのフォーラムに関しては、検察側が裁判所に対してケイコ氏の出国許可を認めないよう要請しているという段階で、裁判所の判断がどうなるかはまだ不透明ですね。ただ検察側は、もともと起訴時に予防措置として3年間の出国禁止の命令を裁判所に求めていたという事もあるので、まぁ何も言わない訳にはいかなかったのかなぁと個人的に思っています。あくまで裁判所の判断がどうなるか、ですね。
「反フジモリ」という勢力は確かに大きな影響力がありますが、司法と軍を牛耳っているとまでは言えない気がします。ケイコ氏含めフジモリ派も政治的影響力はありますし、決して清廉潔白という訳ではないですからねぇ…。笑
エクアドルへの出国は認められなかった様ですね。検察の力が強いのでしょうか。ペルーの政治家って以前から汚職まみれの様ですね。ケイコ氏に勝って大統領になった2人の内ウマラ氏は確か10ヶ月ほど収容されていますしクチンスキー氏は大統領を失脚しています。また2度大統領を務めたアラン・ガルシア氏も汚職の疑いで逮捕される直前に自殺しています。本当に無茶苦茶ですね。
返信削除認められませんでしたねー…。笑
削除検察の「他国領内ではケイコ氏に課した措置の管理が不可能」という主張されちゃうと、まぁ裁判所としても起訴されている段階では許可出せなかったんですかね。
そうなんです。ペルー政界は汚職のデパートで、他人がやれば「汚職」、自分がやれば「賢さ」だと思ってるんじゃないですかね。「法は尊重すれど、遵守せず」的な。笑
植民地以来形成されてきたペルーにおける構造的な問題の一つなんだと思います。