決選投票まで残り1週間となった5月30日、大統領候補者による討論会が、ペルー南部アレキパ州の国立サン・アグスティン大学にあるシモン・ボリバル講堂で開催されました。

先週に開催された政策技術チームによる討論会後には、ケイコ氏とカスティーヨ氏の差が縮まったという事もあり、今回の討論会次第ではケイコ氏の土壇場逆転の可能性があるという大注目の討論会でした。


この討論会では、「200周年のペルー」「健康、パンデミックの管理」「経済と雇用の促進」「教育、科学、イノベーション」「汚職との闘いと公明正大さ」「人権、社会政策、社会的弱者への配慮」という6つのテーマについて討論が行われました。



カスティーヨ氏は、共感と寄り添いのメッセージが中心で、具体的な政策についての発言は少なかったです。一方のケイコ氏に関しては、具体的な提案の発言を行っていましたが、新しく打ち出した多くの提案は積極的な財政出動を伴うものにもかかわらず、その財源については触れていませんでした。


それでは、今回もそれぞれの政策を見てみましょう!


1,200周年のペルー

カスティーヨ氏


「私はプーニャ村から来ました。私は忘れられた学校の教師です。24年間という長きに渡る時間を私の生徒たちと共有しました。また、ロンデーロの仲間達とも地域の健康や安全のために奉仕しました。」と自身の教師やロンデーロ(農民自警団メンバー)としての自身の経験を振り返りました。

また、「私は綺麗な手と共に来た」と、暗に汚職容疑で起訴されているケイコ氏を批判していました

また、「私は売店を閉めるだの、パンを奪うだの、ドアを閉めるだの、家を奪うだの、財産を奪うだのといったことを言われていますが、これらは全て嘘です。」と、私有財産を収用するつもりはないことも強調しました。

カスティーヨ氏は、自身の人生経験を語り、多くの人々の共感を得る戦略をとったようですね。また、彼は「綺麗な手を持っている」と語ることで、自身を「汚職とは関係ない存在」として、また「変化を象徴する存在」としてアピールしました。


ケイコ氏


ケイコ氏は、冒頭から
カスティーヨ氏は、憎しみや分裂、階級闘争を表現する言葉やメッセージを用いて、ジャーナリストだけでなく、昨日、自由に意見を述べるために外出した市民に対しても攻撃を行った。」と、カスティーヨを直接非難し、土曜日にケイコ氏陣営に対して暴力的な妨害があった出来事に触れ、あなたは石を投げることに慣れている」と実際に自身の陣営に投げられた石を見せて、カスティーヨ氏を非難しました。 

また、「私は今日、この恐るべき健康と経済の危機という中で、国を前進させるための提案と提言をするために来ました。平和を守り、暴力を助長せず、貧困ではなく富が分配され、労働者の貯蓄が没収されずに保護されるようなペルーを夢見ています。そして、制度が閉鎖されるのではなく強化され、困っている人が操作されるのではなく助けられる場所とする。」と、述べました。

このように、ケイコ氏はカスティーヨ氏を《共産主義的(階級闘争的)、暴力の象徴》であると直接批判する戦略をとり、また自身を《自由で民主主義を守る存在》だとアピールしました。

2,健康、パンデミックの管理
カスティーヨ氏我々にとってこのパンデミックは公衆衛生の問題ではなく、歴史的問題であり、苦しみの問題ではなく、長きにわたって存在した一般的な問題だ。」とし、健康問題は政府が取り組まなければならない「一般的な危機」であることを強調しました。
そして、今般のパンデミックがきっかけで「古くて腐敗した国家の不安定さが露見した」と述べ、「フジモリ主義は、憲法上の権利としての健康をテーマにしたことがなかったのに、サンタクロースのようにたくさんの提案を持ってきた。」とケイコ氏を批判し、「健康は誰にとっても課題であることを理解しなければならない。」とも語りました。

政策案としては、18 歳以上の全国民が今年中にワクチン接種を受けることを保証し、さらに18歳以下の子どももワクチン接種を受けられるように申請手続きを強化することを主張しました。また、必要な人に対応するために1,000床のICUベッドを導入することを主張しました。

パンデミックで露見した「古くて腐敗した国家の不安定さ」とは具体的にどういった部分なのか、そしてそれをどのように改善するのかといった部分は分かりませんでした。
また、今年中のワクチン接種における具体的なスケジュールや、方法の説明はありませんでした。

ケイコ氏1日あたり7万件のPCR検査を実施するという提案をし、また今年中に全ての国民へのワクチン接種を完了させることを主張しました。そして、そのためには「薬局、教会、学校で実施する」ことを提案しました。

また、パンデミックで身内を亡くした家族に1万ソルのボーナスを支給する「酸素ボーナス制度」の創設を主張しました。そして、全国に100機の酸素プラントを建設し、1万台の酸素ボンベを配布することを提案しました。

また、ペルー・リブレ党の党首であるセロン氏について触れ「セロン氏がフニン州知事時代に公約としていた病院をいくつ建設したかご存じでですか?答えはゼロです。」と汚職で有罪判決を受けて大統領選に立候補できなかったセロン氏を批判していました。


ただ、「酸素ボーナス制度」に関して、どのように支給するのか、財源はどうするのかといった部分は触れていませんでした。


3,経済と雇用の促進
カスティーヨ氏自身の政権ではかねてから主張している「市場人民経済(economía popular de mercado)」の推進を目指すとし、「私たちは市場による人民経済を推進していく。市場は国家をコントロールすることは出来ず、国家が人々と市場をコントロールしなければならない。」と述べました。

小・零細企業の負債を買い取り、小・零細企業への融資を促進し、また市民の借金を帳消しにするために、大手通信会社や電力会社と話し合うと主張しました。
また、「電気料金の引き下げ、または免除のために、電力会社と話をする」とも述べました。
そして、大規模な鉱山会社との契約を再交渉することも提案し、資源の分野では、カミセア油・ガス田の石油とガスを回収することが目標だと語りました。

あと、農業分野では各地にシードバンクを設けるとのこと。


カスティーヨ氏の主張する市場人民経済とはいったい何なのか、私にはちょっと良く分かりませんでした。「ポピュラー・エコノミー」といった単語は「連帯経済」「ポスト成長」などと一緒に反資本主義的思想や左翼運動などでの言説で見かけることがありますが、その本質はどういったものなのかさっぱり分からん…。誰か教えてください。笑

そして「国家が人々や市場をコントロールしなければいけない」っていう言葉が怖かったです。笑

ケイコ氏鉱山会社の納付金40%を地元に直接分配することや、最低賃金の引き上げ、起業家に対する2年間のゼロ税率、100万人の起業家が5年間の猶予期間付きで1万ソルの融資を受けられるプログラム、貯水池や灌漑用水路の資金調達のための大規模鉱山会社からの拠出などを提案しました。
税制面では、燃料価格を引き下げるために選択的消費税(ISC)を引き下げると提案し、さらに、各分野に対する一連の免税を提案しました。観光業では、再活性化を促進するために3 年間の無税を提案しました。水産分野では、水産省の創設を目指すとのこと。
また、現在もコロナ対策の為実施されている夜間外出禁止の時間を飲食業界支援のために短縮することも示唆しました。

大胆な経済政策を主張したケイコ氏ですが、その財源については触れていませんでした。
ケイコ氏の案は財政赤字が拡大する可能性があります。ただ、経済の活性化は必要なので適切な経済浮揚策は間違っているとも言い切れません。計画の財源や詳しい情報が求められますね。

4,教育、科学、イノベーション
カスティーヨ氏「教育はサービスや特権であってはならない」と述べ、憲法上の権利とすべきだと考えました。そして優先事項は、科学と研究に投資することであり、才能ある若者に本格的な予算を配分することであるとのこと。
そして、中等教育を終えた若者は大学に無料で入学できるようにするとのこと。

そして教育カリキュラムの変更を約束し、より良い教師を育てるために各地域に教育大学を設置することなどが提案されました。
また、かねてから訴えていた科学技術省の創設を改めて主張していました。

ケイコ氏教師はワクチンを優先的に接種させるべきだとし、また新たに5万人の教師を任命していくとのこと。
また、オンライン授業のために600万台のコンピューターを購入するための「テクノロジー・バスケット」プログラムを創設すると主張し、教育の為のインターネットへのアクセスを保証し、政府がそのために補助金を出すとも発言しました。

また、教育インフラの拡充の必要性も語り、近代的な学校を全国で3,000校以上建設することも発表しました。

また「公務員のキャリアを強化する。教師に常にトレーニングを与えることが重要であり、報酬だけでなく、実力主義も常に考慮しなければならない。国立大学高等教育監督局(Senedu)を強化する。」とも発言しました。

そして最後に、ウマラ政権時代に創設された奨学金プログラムである「Beca 18」を貧困地域を対象にさらに拡大し、若者が勉強できる可能性を増やすために、追加で3億ソルの予算を割り当てることも発表しました。


5,汚職との闘いと公明正大さ
カスティーヨ氏腐敗は国家のいたるところに浸透しており、あちこちに汚職が存在しています。このような状況下では、汚職はそれだけにとどまらず、若者や家族、社会のモラルをも破壊していることを理解しなければなりません。最近の役人は、「盗んででも仕事をしろ」というのが当たり前になっている。」と述べ、汚職者を処罰する権限を拡大して会計検査院を強化するべきだと語り、司法長官、検事総長、オンブズマン、教会の代表者などの人々で構成される「国家反汚職評議会」を創設し、自らが議長を務めると述べました。

検察の権限を強化させることが重要だとして、共和国議会で現行の刑法の修正を推進していくと述べ、汚職で有罪となった者は生涯、被選挙権を剥奪するべきだとしました。

そして自身が勝利した場合、大統領としての給与を受け取らず、現在の教師としての給与のみを受け取ると明言しました。また、政府チームのメンバーの給料も半分にするとのこと。

対汚職に関しては、検察の権限強化などはいいとは思いますが、国家反汚職評議会」の代表は大統領や政治家じゃない方がいいのではないかと…笑
あと、公民権の剥奪に関しては汚職で有罪判決を受けているペルー・リブレ党設立者で代表のセロン氏の公民権も剥奪するのでしょうか?笑 
また、大統領の給与は受け取らないのは立派な姿勢だと思いますが、2017年に「こんな給料じゃ食っていけねぇ」って教職員のストライキ率いてた2か月も授業を止めていたのはカスティーヨ氏だったのではないでしょうか。

ケイコ氏政治から離れた市民社会のメンバーで構成された「高等委員会」を設立し、この委員会が大統領以下全ての国家公務員を評価し、監督する役割を担うとのこと。

また、会計検査院を強化して、汚職を「制裁」する能力と「防止」する能力を持たせるべきだとも指摘しました。また、汚職行為を通報した職員の保護も約束しました。


ケイコ氏も同じように「高等委員会」と言う独立した組織を創設するとのことですね。自身が汚職で起訴されているということから、どこまで汚職に対して厳しい対応が取れるかは多くの方が疑問を持っているのではないですかね。笑
彼女が当選した場合、汚職問題にはしっかり対応しないと世論の反発を招き、政権運営がままならないでしょうね。

6,人権、社会政策、社会的弱者への配慮

カスティーヨ氏国家は上にいる人のために作られているのであって、下にいる人のために作られているわけではない」として、人権を優先し、差別を非難し、機会均等を促進するための保証となる新しい憲法の制定を目指すとのこと

また、女性起業家のための融資へのアクセスや、障害者のためのプログラムなどの政策を実施することを約束しました。そして、60歳からの社会的弱者にも適用されるように年金制度を拡大するとも主張しました。

ケイコ氏DVの被害者である女性のためのシェルターを作り、経済的に自立できるように訓練できるようにするとのこと。
また、「国家食糧援助プログラム(Pronaa)」の予算を3倍にすることも主張し、さらに全国で3,000箇所の水と衛生設備の接続を行い、「水を君に」プログラムを開始するとも述べました。
また、かねてから主張していた、年金プログラムの受給者を毎年50万人ずつ増やし、年金を2ヶ月ごとに250ソルから500ソルに倍増させる計画を推進するとも訴えていました。





以上大統領候補者討論会のまとめでした!

相変わらず具体的な政策が分からないカスティーヨ氏と、カスティーヨ氏との差に危機感を抱いたのか、積極的な支援策を次々と打ち出したケイコ氏。財源は大丈夫なのでしょうか…。笑 今回の討論会も、「討論」というよりは時間制限のしっかりした「言いたいことを言う会」になっていたように思います。
もっと様々な立場の有識者が発言や政策に対して質問をしたり、指摘したりといった時間を作るべきではないかと思いました。この形式だと誰でもポピュリストになっちゃう気が…。笑

まぁとにかく予定されていた討論会は全て終了し、あとは投票を残すだけとなりました。


最近忙しくて、ブログの更新が遅くなってしまいました(汗) が、明日6日は、いよいよ決選投票の投票日です!

各社最後に発表された世論調査では、両候補ともほぼ差が無く並んでいるという大接戦。この討論会がどのような影響を与えたのかは投票日以降でないと分かりませんが、この討論会が選挙の結果を左右する影響を与えたことは間違いないでしょう。


カスティーヨ氏が逃げ切ることができるのか。

それともケイコ氏が土壇場で大逆転するのか。

誰が勝つのか、ペルーにいても本当に全く分からないです。笑


日曜日は午後7時に投票が締め切られ、それと同時にメディア各社は出口調査の結果を発表します。その後、午後11時ごろには選挙管理員会の最初の開票速報が発表される予定となっています。ただ、接戦が予想されるため、結果が確定するのは翌日となるかもしれませんね。

ドキドキ…。笑


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2 件のコメント:

  1. うーん、心配ですね。全体主義・独裁主義の急進左派はダメでしょう。中国・ロシアと繋がらない南米独自の革新勢力、いわゆる穏健左派は問題ないです。政権が民主的に右派と左派に頻繁に入れ替わるチリ・アルゼンチン・ブラジル・メキシコの様な体制なら良いのですが。マオイストやレーニン主義はダメ。チェ・ゲバラはOK。6月4日のBIOBIOCHILE紙で仮にケイコ氏が大統領になってもペルー司法はケイコ氏の汚職捜査を継続する旨、報道していますね。決選投票直前のこのタイミングに報道しますかね? やはりマスコミ・司法にも反フジモリ勢力が浸透しているのでしょうか。

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    1. rokkoimport様、コメントありがとうございます!
      今回の選挙では「ペルーの為に共に党」のメンドーサ氏といった左派候補がなぜ支持を伸ばせず、急進的なペルー・リブレ党(カスティーヨ氏)に支持が集まったのか不思議なんですよね。
      右派も左派も多党乱立状態がペルーの政治的不安定を生んでいる上に、特にこのコロナ・パンデミックで経済が停滞し閉塞感が広がっていることもカスティーヨ氏へ支持が集まった要因かもしれません。
      ただ、それにしても「マルクス・レーニン主義政党」が支持を伸ばすというのは…。笑


      「反フジモリ」は右派・左派問わず、ペルーで大きな影響力を持っているかもしれませんが、組織化されているわけではなく、あくまで個々のムーブメント的な感じだと思います。むしろペルー司法は、その中立性を示すためケイコ氏が勝っても捜査を続けると言うでしょうしね。
      メシアに関しても、ペルーの主要メディアはむしろカスティーヨ氏の急進的なイデオロギーに危機感を持っていたように思います。カスティーヨ氏側がメディアは偏っていると批判し、敵視していたぐらいなので…。
      もちろん左派・リベラル系のメディアはケイコ氏に対して批判的な態度はとるでしょうし、逆にカスティーヨ氏に対するネガティブな報道が多い右派メディアもありましたしね。

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