私たちが所属するペルー民族舞踊団「Ritmos y Matices del Perú」(通称マティセス)は今年の10月10日に設立から12周年を迎えました。

そして、10月18日にその記念公演「Fe Y Devoción(信仰と献身)」を開催しました👏




今回の公演は「Fe Y Devoción(信仰と献身)」というタイトルのとおり、ペルー各地の舞踊とその舞踊と深く結びついているカトリックの信仰をテーマにしています。


なぜ伝統舞踊とカトリックの信仰が結びついているのか?

ぺルーでは、スペイン人による植民地時代(16世紀以降)に、キリスト教(カトリック)が持ち込まれました。 

元々この地の先住民は太陽や山、湖といった自然や地母神(パチャママ)、先祖崇拝などを崇拝する独自の信仰がありましたが、スペイン人は植民地化にあたり先住民に元々の信仰を否定させ、カトリックの信仰を強制させました。

けれど、この地で何千年も続いた先住民の豊かな精神世界が完全に消えることはなく、彼らの世界観や自然への敬意や崇拝は強く残りました。そして時間とともに「先住民の信仰+カトリックの祭礼・聖人崇敬」が混ざっていった、という流れがあります。

 そのため、伝統舞踊が「聖母マリアや守護聖人の祭り/教会の祝日/キリスト教の儀礼」とリンクして登場することが多くあります。例えば、Fiesta de la Virgen del Carmen(クスコ州パウカルタンボやピウラ州ワンカバンバ)や Fiesta de la Candelaria(プーノ)などでは「聖母マリアを讃えるカトリックの祭り」に、踊り・仮面・先住民の舞踊スタイルが加わっています。 こうしたシンクレティズム(混ざり合い)の中で、踊りが信仰・地域アイデンティティ・祝祭の一部になっていったのです。こうして生まれた「信仰と踊りの融合」は、ペルー伝統舞踊の特徴であり、アイデンティティとなっているのです。


こうしたシンクレティズム(混ざり合い)はペルー文化の大きな特徴で、その世界観をまるごとステージで表現したのが今回の公演でした。


今回披露した舞踊と、結びつく聖人・祝祭


公演で披露した舞踊は全部で10作品。

各地の信仰とセットで紹介する演出になっていました。


・トンデロ(Tondero) ー ピウラ州アヤバカ「アヤバカの囚われの主」


・パンディージャ(Pandilla) & トゥルマヨの祭り(Fiesta de los Tulumayos) ー アマゾン地方「聖ヨハネ」


・トゥルコスとカチャルパリ(Turcos y Cacharpari) ー アレキパ州「被昇天の聖母」


・コントラダンサ(Contradanza) ー ラ・リベルタ州ワマチュコ「アルタグラシアの聖母」


・パヨス(Pallos) ー ラ・リベルタ州サンティアゴ・デ・チュコ「聖サンティアゴ」


・ソン・デ・ロス・ディアブロス(Son de Los Diablos) ー リマ州「聖体祭(コルプス・クリスティ)」


・ティンクス(Tinkus) ー ※プーノ州「カンデラリアの聖母」


・カポラレス(Caporales) ー ※プーノ州「カンデラリアの聖母」


・モレナーダ(Morenada) ー ※プーノ州「カンデラリアの聖母」


踊りの前には、それぞれの聖人にまつわる劇や祭りの情景を演じるパートが入り、信仰と踊りの結びつきがより分かりやすく伝わる構成でした。


 準備は半年以上…しかし思わぬ“会場問題”


公演準備は今年のかなり早い段階からスタートし、半年以上かけて進めてきました。

元々はいつも公演で使用している市立劇場を使用する予定でしたが、トルヒーヨのショッピングモールで大きな事故が起き、その影響で私たちがいつも使っている トルヒーヨ市立劇場も安全確認のため使用できるか不明 に…。

いつ使えるか分からない劇場に頼るのではなく、普段練習で使っている 野外音楽堂で公演をすることしました。


ただこの音楽堂、通りから丸見えで楽屋は小さい、音響も照明設備もゼロ…。

完全に「ゼロから舞台を作る」という状態。


仮設工事・機材レンタル・設置、衣装レンタル代、警備費用…

かけた予算は今までで最大。

ディレクター陣も私たちダンサーも「本当に大丈夫か…?」と内心ビビりまくっていました。笑


それでも座席数は市立劇場よりも多いので、しっかり集客さえできれば・・・

「むしろチャンス!」

という状況でもありました。



チケットはネット販売だったのですが、私たちダンサーもSNSを駆使してたくさんの人にPRしていたのが功を奏したのか、なんと前日には無事に完売!


当日も「チケットありませんか?」の連絡が止まらず、会場には当日券待ちの列まで…。

一般席はベンチ型で、ゆったり座ると500人弱、詰めれば600人弱ほどが座れます。

当日の客席は見事に 超満員 でした!!


出演数が過去最多!

今回の公演、実は私たち自身にとっても過去最大の挑戦でした。

今回の公演では

シンジ:7作品

モニカ:6作品

と今までで一番多いダンスを踊らせていただけることになりました!

2年前の舞踊団への入団当初、私たちはマリネラ以外の踊りは何も踊れませんでした。

それが在籍2年でここまで多くの作品を任されるようになり、主力として扱ってもらえていることが本当に嬉しかったです。

ただ、同時に責任もずっしりと感じるようになりました。

自分が出ることで出られない人がいる。そう思うと、どれだけ疲れていてもサボったり、舐めた態度で練習するなんてできない!とプレッシャーを感じていました。


さて、私たちの舞踊団「マティセス」では本番前の約1週間程度は、衣装を本番同様に着て通しリハーサルを徹底的にやるのが伝統。決められた本番と同じ時間内で着替えて踊る必要があります。


今回の公演では例えばシンジは

トゥルコス → コントラダンサ → パヨス → ソン・デ・ロス・ディアブロス  4連続

→カポラレス → モレナーダ 2連続

など、とにかく連続出演が多かった!


踊って息が上がった状態で、冷静に正しく衣装を着替えるのが もう本当に地獄で…笑。

ただ、何度もリハを重ねて順序を身体に叩き込んだおかげで、本番はなんとか問題なしでした。


 初めての“生演奏”


さらに今回、私たちは初めて 生演奏で踊る という経験も。


生演奏はテンポも速さも微妙に変わるし、どうしても演奏のミスが起きることもあります。

ミュージシャンの音をしっかり聞き、状況に合わせて踊るのは本当に難しかった…!

「この音で動き始める」という場面でも、少しタイミングが違ったり、音が音源と少し違うだけで、ドキッとしちゃいます。笑

経験がものをいう場面も多く、私たちはドキドキしっぱなしのステージでした。



そして驚いたのは、公演当日。

なんと ペルー国立舞踊団に所属しているトップダンサー、クリスティアンさん がトルヒーヨに来てくださり、まさかの舞台出演まで!

たまたま、その週末にトルヒーヨでご自身の運営するダンス教室のワークショップを行うということで、トルヒーヨに来ていたんですがコントラダンサ、モレナーダの2つのダンスを踊ってくださることになりました!

憧れのダンサーと同じ舞台で踊れるなんて本当に光栄でした♪


しかもクリスティアンさん、当日の朝到着して、すぐに軽く合わせただけで本番は完璧…。

そのプロ意識と技術に終始感動しっぱなしでした。

ちなみにクリスティアンさんは大阪関西万博で、ペルー政府からダンサーとして派遣されていました。

公演後の集まりにてクリスティアンさんと♪


直前の1〜2週間での毎日夜遅くまでリハーサルで疲れは限界でしたが、本番が始まればそんなのを感じることもなくなりました。

満員のお客さんの前で踊る気持ちよさ。

拍手のエネルギー。

自分たちの体に染み付いた動きが、音楽と会場の空気と合わさっていく瞬間。


「ここまで頑張ってきてよかったー!」

心からそう思える最高の公演になりました。




Son de los diablos
アフロ・ペルーの民族舞踊で、足のステップ(サパテオ)や
アフリカンな腰の動き、ユーモアある演技が特徴的。


実はこれ、シンジです♪


Turcos y Caharpari(トゥルコスとカチャルパリ)
明るくエネルギッシュな踊り♪
ダンスの中に、歌って祈るパートがあるのが特徴的でした♪




Pallos
基本男性によって踊られる力強さが求められるこのダンス。
女性として唯一モニカがメンバーに選ばれました。

Morenadaには様々なキャラクターが存在します。
彼女たちは「Chinas(チナス)」
高いヒールのブーツ&ミニスカで女性らしい柔らかな色っぽい動きをします。


このキャラクターは「Achachi(アチャチ)」
酔っ払いのおじいさんみたいな動き方をします。
衣装が激重で着るのにも一苦労。
マスクで分からないですがこれはシンジです♪
ディレクターからも周りからもシンジの踊るアチャチは大絶賛でした。


これは「Mamacha(ママチャ)」
成熟した女性、お母さんのようなキャラクターです。
重たい大きなスカートを大きく広げながら
右手に「Matraca(マトゥラカ)」という楽器を持って踊ります。


ツーショットも撮ってもらいました♪


両サイドの彼らは「Morenos(モレノス)」
彼らがモレナーダのメインキャラクター。
アンデス高地に連れてこられた黒人を表しています。

Tinkus(ティンクス)
元々、収穫祭などに豊穣を願って行われる
村同士の儀式的な格闘(祭り)
に由来する踊りです。



カラフルな衣装が照明と合わさって
蛍光に光って、いい演出になってました!!




全員が闘志をむき出しにして叫ぶシーンが
かっこいい。



私たちは残念ながら今回tinkusには
出演できませんでしたが、いつか踊ってみたいダンスです!
踊りの中では2つのグループの衝突を表現されていて、恋のライバル同士による
乱闘シーンや、情熱的なシーンもありました♡
そして衣装がとにかく素敵!



Caporales(カポラレス)
今まで何度か踊ってきたダンスですが、今回は元々あった振付を
バージョンアップして踊りました!
ペルー国立舞踊団のトップダンサーのお2人
クラウディアさんとキケさんが指導、監修に関わってくれました♪


本番一週間前の10月10日は、グループの
12周年記念日でした♪

練習の後皆でお祝い♪
この公演はダンサー一人一人の家族の大きな支えが
あってこそ実現できました。


このメンバーと踊れて最高でした!


公演後、グループのディレクター達と深い繫がりがある
神父さんのご厚意で、私たちのために特別なミサを開いてくれました。
12年前に神父さんがディレクターに「君は舞踊団を作るべきだ」と
アドバイスをしたのがきっかけでマティセスは誕生しました。

これからの益々の舞踊団の成長と発展を皆で祈りました。


↓↓ちなみに現在、公演のTonderoの映像が

Youtubeにアップされていますので良ければご覧ください!↓↓




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※注※

ティンクスやカポラレス、モレナーダはボリビアでも盛んに踊られていて、たびたびその起源を巡ってペルーとボリビアの間で論争があります。

ちなみにティンクスはボリビアの北ポトシ地方に起源をもつダンスですが、元々は現在のペルーやボリビアといった国のアンデス地方の習慣や儀式をルーツとするもので、ペルーでもプーノ州を中心に各地で踊られています。

カポラレスは、ボリビアのサヤ(Saya)というダンスからインスピレーションを受けて創作されたダンスで、1969年にボリビアのラパス市で始めて踊られました。その後プーノでも踊られるようになり、現在ではペルーや南米の各地で踊られています。

モレナーダはその起源がボリビアのラパス市やチチカカ湖の周辺、またはペルーのプーノといった様々な仮説があります。

こうして、ペルーのプーノ地方のダンスはたびたびボリビアとその起源を争うような論争が繰り広げられます…。笑

しかし、現在のボリビアは過去のスペインによる植民地政策のもとにペルー副王領の管轄下に置かれ、アルト・ペルー(高地のペルー)と呼ばれていました。そしてペルーのプーノ州はボリビアとも国境を接しているため文化的共通点も多く、今でこそ国境で分かれてはいますが、昔は同じ行政区の中で、人も文化も行ったり来たりしていたわけです。

これらのダンスの形式の起源が現在のボリビアであることは間違いないでしょうが、同じ文化圏でもあるプーノの人たちが自分たちの文化として誇りを持って踊っている姿を見ると、“美しい文化の広がり”を感じさせられます。

「起源はどこか?」はもちろん大切ですが、人間が勝手に引いた国境があっても、文化というのは繋がってしまうものなのですよね。

ただ、こうした論争のあるダンスの動画などをSNSに挙げると、ボリビアの「愛国者」の方々から数々の罵詈雑言が飛んできます…。笑

そこでペルーとボリビアの「愛国者」同士による不毛なレスバトルが繰り広げられることが日常となっています。

ペルーも「愛国者」の方々が、ちょっと無理筋な「実はペルー発祥」論などでボリビアの方々を刺激してしまったり、罵詈雑言をやり返したりしているので、詳しい歴史は専門家に任せて、お互い美しいダンスを分かち合いましょうよ! とペルー在住の日本人という外野の私は思っちゃいます。笑


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