「国際法違反」だけでは語れない話

年明け早々ニュースで大きく報じられている、米軍によるベネズエラへの攻撃と大統領マドゥロの拘束。

アメリカが突然他国に軍事介入し、大統領を拘束したと聞いて、驚いた方も多いのではないでしょうか。

日本の報道では「国際法的にどうなのか」「法的根拠はあるのか」という視点で語られることが多く、それはそれで正論だと思います。国家主権や国際法の観点から見れば、アメリカがとった行動が国際法違反だという指摘は、理屈としてはその通りです。

……が、話はそう単純ではありません。


ベネズエラと同じ南米であるペルーに住み、実際にベネズエラ人の友人や知り合いが身近にいると、どうしても違う感情が湧いてくるのも事実です。そしてペルーだと、多くの人の本音は、「こうするしかなかったんじゃないか」「とにかく状況が少しでも動いてくれてよかった」というものだと思います。

また、マドゥロ拘束の報道に対し、ベネズエラ国民が涙を流して喜ぶ様子も各地で伝えられていました。


「自国が米軍に攻撃されて喜ぶ国民がいる?」

普通に考えると、かなり違和感がありますよね。


ではなぜ、そんな反応が生まれるのか。

その背景を、ここペルーの現実から見ていきたいと思います。


祖国から逃れたベネズエラ人

まず、ここペルーの話から。

ペルーには現在、約170万人ものベネズエラ人が暮らしています。そのほとんどが、祖国で普通に生活することができなくなった、経済的・政治的な難民です。


実際、ペルーに移住してから本当にあちこちでベネズエラ人を見かけるようになりました。僕が2014年にリマに留学していた頃はあまり見かけなかったので、2019年に移住したときの変化の大きさにはかなり驚きました。そりゃ、170万人って凄まじい数ですもんね。

これだけ多くの人が祖国を離れざるを得ない状況って怖いですよね。

そしてベネズエラの政権に批判的で、経済的にある程度安定していたペルーも難民の目指す主な移住先の一つとなりました。

その結果、首都のリマは「ベネズエラ国外で最も多くのベネズエラ人が住む都市の一つ」とも言われています。


ベネズエラは、ペルーと同じ南米大陸にあり、世界最大級の石油埋蔵量を誇る資源大国です。本来であれば、ここまで国民が国外へ逃げ出す理由はありません。

しかし、政治的要因によって民主主義が機能しなくなり、経済政策も完全に破綻しました。その結果、2018年にはインフレ率が13万%に達するハイパーインフレが発生し、国内経済は崩壊。

多くの国民が、普通に生きることすらできない状況に追い込まれました。


こうした失政によって、人口約3000万人の国から、約800万人が国外へ脱出したと言われています。これは内戦で苦しんだシリアの難民数をも上回る規模で、ベネズエラは戦争状態ですらないにも関わらず、世界で最も多くの難民を生み出している国の一つとなってしまいました。


民主主義が内側から壊れていった国


少し前までのベネズエラは、南米の中でも比較的裕福で、政治的にも安定した国でした。多くのラテンアメリカ諸国が軍事独裁政権だった時代でも民主主義を維持し、90年代初頭まで30年以上にわたって二大政党制が続いていたことから、「南米の優等生」と呼ばれていたほどです。


では、なぜここまで転落してしまったのか。

それは、完全に政治の問題です。


1999年に大統領となったウゴ・チャベス、そして2013年に亡くなったチャベスの後を継ぎ、国を支配していたニコラス・マドゥロ。この二つの政権の失政が、現在の状況を作りました。

当時、汚職や経済悪化により、既存の政党や政治家に国民はうんざりしていたところに、アウトサイダー的存在として登場したのが、元軍人のチャベスでした。

しかし、当初は比較的穏健だった経済政策は、支持率低下を背景に大きく方向転換します。原油価格の上昇を追い風に財政支出を急拡大し、インフラ整備や貧困層向けプロジェクト、公務員の大量増員が進められました。

同時に、憲法改正を掲げたチャベスは制憲議会を発足させ、そこから国会や最高裁への介入が始まります。


法的根拠の曖昧なまま、民主的に選ばれた政権が民主主義を内側から壊していく。

こうして権力のチェック機能は失われ、選挙も形骸化し、ベネズエラは民主主義の形だけを残した権威主義国家へと変質していきました。


「正しさ」だけでは救えない現実

その結果、政治と経済は完全に崩壊し、国を捨てて逃げるしかない人が急増しました。

コロンビア、エクアドル、そしてペルーといった様々な国へと難民が流入し、ペルー国内ではベネズエラ人の犯罪や、ペルー市民との様々な摩擦が問題視されることも増えました。

個人的な印象としては、ベネズエラ人の多くはとても親切で、礼儀正しく、働き者です。

ただ、これだけ多くの人が来れば、その中に犯罪に手を染める人が出てしまうのも、残念ながら現実です。

ごく一部の人間が行った犯罪行為でも、もちろん「ベネズエラ人による犯行」と報道されるので、残念ながらベネズエラ人=危険というイメージも生まれてしまい、多くの善良なベネズエラ人が、仕事や住居探しで大変苦労されているということも知っています。

このような状況で、無理筋な理屈であっても他国の軍事力によって祖国の独裁者が無理矢理排除されると、ベネズエラ国民が喜び、希望を見出すのは自然なことだと思います。

もちろん、「アメリカのこうした対応が、権威主義的な大国、とりわけ中国の台湾に対する姿勢に誤ったメッセージを与えるのではないか」という懸念も理解できます。

ただ、経済が崩壊し、国民が弾圧され、民主主義も機能せず、軍と政権が強く結びついた状況では、国内から平和的に体制を変えることは、ほぼ不可能だったとも思います。


国外に逃れた難民が武装蜂起するという選択肢も、現実的ではなく、想像を絶する犠牲を生んだでしょう。

実際にベネズエラの状況を知り、ベネズエラ人の友人がいる身としては、たとえアメリカの行動が国際法違反だ、法的根拠がないと批判されたとしても、祖国を追われ、異国の地で必死に生きている人たちが涙を流して喜んでいる姿を見ると、正直、「よかったな」という感想しか出てこない、というのが率直な気持ちです。


国際法は苦しむベネズエラ国民を助けることができず、国内法はむしろ国民を弾圧する道具となっていた。

そんな状況の中で、「」はその価値を失っていたのではないか、とも感じてしまいます…。


日本にいると、「選挙がある=民主主義が機能している」と感じやすいと思います。

でもベネズエラで起きたのは、選挙や憲法といった「民主主義の形」だけを利用して、実質的に権力を固定化していくやり方でした。

メディアは統制され、反政権的な発言をすれば仕事を失う、あるいは拘束される。選挙は行われても、公平とは言えない結果の決まった出来レース。

日本で当たり前だと思っている「政権を批判できる自由」や「負けたら政権を降りる」というルールが、そこにはありませんでした。


実際ベネズエラでは「国内で変える」「選挙で何とかする」という選択肢が、現実的には残されていませんでした。

だからと言って、大国が法的根拠もなく圧倒的な軍事力で他国へ侵攻し政権転覆を図ることを「正しい」と言いたいわけではありませんし、それは危険だし、間違っているということも理解しています。


でも、苦しんできたベネズエラ国民の喜びの声を前にすると、ベネズエラの悲惨な状況を知らないまま、ただ「正論」をぶつけることも暴力的なのではないか、とも思ってしまうのです…。


アメリカの極端な行動を批判しつつ、権威主義的体制の崩壊の可能性を喜ぶことは、両立し得るのではないか。

そもそも独裁者による不当な「秩序」が人々を苦しめ、「国際法」や「国連」もまた、苦しむベネズエラ人を助けることができなかった中で

果たして、その"正論"は"正しさ"は

ベネズエラの人々を救い得たのだろうか?


ベネズエラは、ここからどのような未来に進むのか。

健全な民主主義を取り戻すことができるのか、治安と経済が回復し、多くの難民が「いつでも帰ることができる」という安心感を得られるのか。

現状では、ベネズエラの未来はまだまだ不透明ではあります。さらに状況が悪化する可能性だってあります。

それでも、未来に希望も持てず、祖国を離れるという選択肢しか持たなかった多くの人にとって、この出来事が大きな希望であることは事実です。

どうかベネズエラが昔のように自由で豊かな安全な国になりますように、と祈るばかりです。


何が正しいのか、何が正義なのか。

外から見ているだけでは分からない現実があり、「正しさ」を簡単に言い切ることはできません。

ベネズエラでの出来事をペルーから見ていると、そんなことを強く考えさせられます。


チャベス主義が100年続くことはない。
それに耐えられるベネズエラ人はいない。


2024年のベネズエラ大統領選挙時に
トルヒーヨの旧市街で反マドゥロの意思を示す
プラカードを掲げるベネズエラ人たち。
たまたま集会のそばを通りかかったので
写真を撮らせてもらいました。
この選挙では、多くの国民が選挙登録すらできず
それでも情勢調査では圧倒的大差で
野党候補が勝利という予測だったのですが
選管によって結果が操作され
マドゥロの当選が決まるという
ひどい出来レースとなってしまいました。



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